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作家ファイル6 河野あき「風化していく風景の美が、 大切なことを教えてくれる」

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*2007年の記事です。

●納得できるまで学び続ける情熱。

 近くにあった美大の学生たちがスケッチブックを抱えて闊歩する姿に憧れて、ほんの軽い気持ちで美術部に入ったという、かつての京都の女子大生が、一昨年(2006年)光風会会員入りを果たした。
「これまでの紆余曲折が実は1本の道になっていたことが今になってわかる」と河野あきさんは振り返る。
短大卒業後、結婚、出産、育児で一度は手放した絵筆を、通信講座を受講して再び握るようになった。今でも折に触れて手にとって見直す当時のテキストは、河野さんの宝物だ。

 以来、「もっと上手になりたい」という情熱が、いつも河野さんを突き動かしてきた。東京で開かれる勉強会にも積極的に参加し、多くの人の作品、考え方に触れた。
「子どもが受験生でもおかまいなし。<余所じゃお母さんのほうが受験に熱心なくらいなのに、うちは放ったらかしだ>と息子に言われたこともあります」
と河野さんは苦笑する。

一度やると決めたことには、
納得できるまでとことん追求してしまうタイプだという。
椅子をモチーフにした作品制作のときには、
これぞという椅子を探し続け、大阪まで足を伸ばしたこともあるそうだ(この作品は、 89 年に県展市長賞に輝いた)。

●石膏デッサンから学び直したスランプ時代。

初めて大きなスランプに陥ったときもそうだった。
今から 20 年近く前のこと。
見えない壁を破るために河野さんが選んだのは
「一からやり直す」という道だった。
「石膏デッサンを習ったのはこの時期です。
基礎をしっかり固めようと思い直したんです。
改めて本気で絵画と向かい合おうと思えた、
私にとっての転機の一つだったかもしれません」

 間もなく次の転機がやって来た。
89 年秋から約1年、ご主人の留学に同行して過ごしたヨーロッパ。
オランダ、ドイツ、イタリア、オーストリアと、
そのものが芸術のような街並と、
美術館の膨大なコレクションに囲まれて過ごした。
「小手先のいい加減な作品を作っていては恥ずかしくなるような、
本場の、圧倒的な美の数々を目の当たりにして、
かえって気が楽になりました。
あるものをあるがままに描けばいいんだと、ふっ切ることができたんです」

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●深く考える喜びを、絵画が教えてくれた。

 今も続く、彼女のヨーロッパシリーズはこうして生まれた。
90 年の日展に入選した、シリーズ第1作の『村の朝』を、
河野さんは「自分にとっては処女作のようなもの」と言う。
そこに生きてきた人々の思いや息づかいを吸い込みながら、
年月をかけてゆっくりと風化していったような、ヨーロッパの石畳や壁。
そして、その中で「今」生きている、ごく普通の庶民の暮らし。
長い時の流れと現在が自然に溶け合っているのが、
河野さんのヨーロッパシリーズだ。
今も1、2年おきにご主人とヨーロッパに出かけては、
スケッチを楽しみ、新たな創作のインスピレーションをかき立てている。

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「たとえばギリシャ遺跡などの古い大理石の質感に魅せられます。
何千年もの昔からの人々の歴史があって、
その延長上に自分がいるのだと思うと神妙な気持ちになる。
何かを見ても表面的な感想に終わらず、
深く物事を考えるようになってきたのは、
絵画が私にくれた恩恵だと思っています」

取材・文/中原 順子



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