光風会岡山支部ウェブサイトグローバルナビゲーション
ホーム
トピックス
概要
岡山光風会の新しい情報をお届けします

記事一覧


作家ファイル7 岸本修「導きについてきて、 今の自分と絵がある」

ファイル 91-1.jpg
*2007年の記事です。


●人も自分も楽しめる絵を目指して。

 強い自我を他者に出さない人だ。
物静かに淡々と言葉を選んで語る人。
その岸本修さんが、
「描いてるときに、<おっ、お? おおっ !? >となった。
うまく描けたというより、描いていて面白かった」と教えてくれた作品が、第 92 回光風会展で光風奨励賞に輝いた『屹立』だ。

ファイル 91-2.jpg

「こういう状態にはめったに行けないんだけど(笑)。
研究会などでいつも清原(啓一)先生に言われてることなんです。
堅くなって描いてたら駄目なんですね。
そうすると人に自分を押し付ける絵になってしまう。
人も楽しんで、自分も楽しめる絵にしないと」

 ずっと描き続けているのは、
人物と、その背景のように座している牛。
農家に生まれた岸本さんには、牛は身近な素材だ。
蔵に唐箕(とうみ/穀物を精選する農具)があるような、
友人から「トトロの世界みたい」と言われるような
日本の古い面影が残っている農家。
そんな生まれ育った世界を偲ばせる作品を描いていることを、
言葉にこそ出さないが両親も喜んでいるそうだ。

「<あんたの家には牛がおるんですか、
ええですなあ、そういう家はもうほとんどないですからなあ>
と薦めてくださったのは福島(隆壽)先生です。
人の描かない、目立つものを描けと」

●50 冊描きためたスケッチブック。

 目の前の状況に抗うことなく、
むしろ師や先輩の教えを素直に受け止めて挑戦してきた。
そもそも岡山大学で美術教育を専攻したのも、
積極的に美術の道に進もうと考えていたわけではなく、
家庭の事情などで、否応無しに選んだ進路だったという。
もちろん、小さい頃から絵を描くのは好きだったけれど。

「慌てて受験用の美術の勉強をしたんです。
これしかないんだから、頑張ろうって」

 しかし、そのとき教えを請うたのが、
故・小森俊顕先生であり、
それが光風会との出合いに繋がっていったのだから
縁というのは面白い。

「大学では、美術への意識の高い同級生のなかで
門外漢のように感じていたときもありましたけど、
いい先輩に恵まれたんですね。
いつの間にか馴染めていました。
最初に県展に出品したときも、<出してみれば?>と言われて、
そうか、そうするもんなのかって(笑)。
先輩が、画材屋に一緒に行ってくれたりね」

ファイル 91-3.jpg

 入学した年に、とある先生に
「スケッチブックがこれくらい(と肩ほどの高さに手を上げて)に
積み重なるまで練習したら、上手になるよ」と言われて、
すぐに挑戦しはじめた。
今も保存してある、当時からのスケッチブックは、 50 冊は軽く超えている。

●やっぱり興味があるのは人。

 ところで岸本さんは、似顔絵イラストの名手でもある。
「自分にとって気安い人ほど、毒のある顔になるかも(笑)」と、
さらさらと描いた友人や恩師の顔は、学生時代から周囲にも好評だ。
「幅を広げるために、静物や風景も描いていかないとな、
とは思っていますが、作品にはなかなかできません。

ファイル 91-4.jpg

まずはこれからも人を描き続けていってみたいですね」と岸本さん。
数年前、一度行き詰まって以来、
実際に人と向きあってしっかり描くようになった。
それは自分自身だったり、あるいは同僚だったり。
その人らしい、生きた重みが感じられる佇まいを、
岸本さんの原点とも言える牛がこれからも見守っていくのだろう。

○岸本さんの記事は次のサイトに詳細が掲載されています。
グループ8ウェブサイト:https://groupeight.exblog.jp/7985405/

構成・文/中原順子(フリーライター)



©2016 OKAYAMA KOUFUKAI. All Rights Reserved.