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作家ファイル1 赤柏恵子「チャンスを与えてくれた」

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●幸せな一コマ

 11 時 45 分。まだ4時間目の始業チャイムは鳴らないが、バタバタと美術教室に入ってきた生徒達は、壁際に置かれた作品収納箱から自分の作品を取り出すと早速席に着き、自由な形に切り抜かれた合板を大事そうにサンドペーパーで磨き始めた。

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岡山市街地から車で 15 分ほどの距離にある田園地帯の中学校。すぐそばにはゆったりと流れる笹が瀬川、古代吉備文化を今に伝える神社がある。

「先生、もう始めてもええじゃろ」
 チャイムを待ちきれない男子生徒が電動糸鋸器の前に立ち、授業の準備に追われる赤柏恵子さんに声を掛けた。

「ちょっと待ってんよぉ。最初に説明するからなぁ」
 これから始まる授業がどんなに楽しいものなのかが伺われる幸せな一コマだ。

●その先生のようになりたかった

 赤柏さんは、いぐさの町・早島に生まれ、祖母が織機でゴザを織る音や、職人気質の父が経営する鉄工所の音に囲まれて育った。そんな彼女が絵を勉強するようになったのは小学校 5 年生の時だ。

絵が好きな母親が、娘にぜひ絵をならわせたいと、自宅を絵画教室として開放。講師は当時小・中学校で美術を教えていた早島在住の教師。生徒は近所から 15 名ほど集まった。
「批評会のとき、いい絵が描けたら先生が抱っこしてくれたり、頭をなでてくれたりするんですよ」
 と当時を思い出しうれしそうに話す。
「その先生のようになりたかったんです。」

その後中学校、高校と美術部で活動。高校では現在岡山支部代表の福島隆壽先生に指導してもらった。教員になってからも制作は好きで続けていたのだが、光風会に出品するようになったのは3年前(本記事掲載当時)から。

岡山光風会会員のお孫さんが生徒として現勤務校に通っており、その生徒から光風会展の展覧会の案内を受けたことがきっかけだ。支部展に通うようになって 2 年目に会場で偶然福島先生と再会し、一緒に絵を頑張ろうということになったのだ。

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●チャンスを与えてくれた

「チャンスを与えてくれた」 と赤柏さん。
「学校の仕事も忙しいのですが、みなさんのレベルに追いついていけるように頑張っています。もっと繊細な絵が描けるようになりたい。ルドンの花の絵のような、色彩の美しい作品が描けるようになれたらと思います」
 そんな赤柏さんの明るさを映し出すように、教室内に展示されている生徒作品はどれも色彩豊かでユーモアに溢れている。

「他の教科とちがって、授業のなかで一人一人と会話ができます。卒業生から『あのとき先生に褒めてもらったことを覚えている』、『美術の授業は楽しかった』といわれることが何よりうれしい」

小学生の頃絵を描く楽しみを知り、頭をなでてもらって喜んでいた少女は、今こうして大好きだった先生と同じ道を歩みながら、色彩にあふれた作品が生まれる日を信じ、制作活動に意欲を燃やしている。

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(この記事は旧ページから転載したものです)
構成・文/関野智子



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